雨
テレビの天気予報は、朝から雪を知らせていた。
降り続く冬の雨に、
東京の街がすっぽり覆われている。
こんな日は、家でゆっくりするのもいい。
でも、
『久しぶりに”あの”カメラを使ってみよう』と思い立った。
最後に使ったのは、確か中学2年生のときだ。
修学旅行でデジカメを持って行けない代わりに、
学校の先生から配られたのが、
写ルンですだった。
撮れる枚数は、27枚。
今日は、このフィルムカメラと、いつものデジカメを相棒に、
広尾の街へ向かうことにした。
写ルンですの1枚目は、白と黒の色彩が哀愁漂う「さつまや」の扉。
広尾に4年近く通っているが、「さつまや」を訪れたのは今回が初めて。
「ごはん、とん汁お替わり自由!」
「コーヒーorジャスミン茶付き!」 の文字に目が留まったのだ。
扉を開け店内に入ると、木のぬくもりを感じる空間が。
平日の昼さがり。
心落ち着くおしゃれな音楽、
ふすまで仕切られた個室、
カウンター。
居心地の良さに、胸が高鳴った。
今回頼んだ「チキン南蛮タルタルソース定食」は、優しい味わい。
とん汁は、寒い日の強い味方だ。
チキン南蛮に、熱々のとん汁2杯を食べ終えた頃には、
身も心もすっかり満たされていた。
雨降る冬空の下、フラッシュをONにして、
写ルンですのシャッターを再びきる。
フィルムレンズを通せば、あら不思議。
いつもの街並みも、昔懐かしい景色に変わる。
普段何気なく見ていたあのお店の看板も、レトロな印象に。
続いて、有栖川宮記念公園の梅の花。
デジカメのように、1輪の梅の花にスポットライトを当てることは難しい。
写ルンですは、いつもより遠くからの景色を捉えた。
初心者のフィルムカメラ撮影には、失敗がつきものだ。
現像した写真を見てみると・・・・
近づきすぎたのか、
ピントが合わず、ぼやけてしまったり、
白飛びして、
「一体、何食べたの?」くらいに、ごはんのコンディションが最悪だったり,
27枚の中に、うまく撮影できなかった写真がまざっている、
なんてことがある。
フィルムカメラは、やり直しがきかない。消せない。
でも、
消せないからこそ、失敗した写真ともしっかり対面する。
そして、シャッターをきった瞬間のことを鮮やかに思い出し、
徐々に愛着が湧いてくる。
とどのつまり、物事は捉えようなのだ。
さて、翌日、広尾の空は気持ちよく晴れた。
27枚目の最後は、やっぱり、
広尾の青空。
木々の合間から、顔を見上げてファインダーを覗く。
雨が上がった後の青空は、
晴れが続いた空よりも、心なしか、
青く、清々しい、気がする。
雨降る日を静かに待つ日があってもいい。
傘も差さずに、ずぶ濡れになる日もある。
でも、雨を存分に味わったあとは、
晴れをもっと鮮やかに楽しめるはずだ。
明けない夜はないし、
やまない雨はない。
雨でぬかるんだ道は、少しずつ乾き始めている。
れんジョー
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